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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常 その3 ちゃんと見れない舞妓さん

一枚板のカウンター。竹林の小庭。薄暗い店内を照らすバカラ制のキャンドル。

微かに響くボサノバに合わせて銀髪中年の男性がグラスに入ったワインをあおる。

中身は96年のシャンベルタンクロドベーズ。作りてはフェイヴレィ。

ジュヴレィシャンベルタンの特級畑の物ではっきり言って高級品である。

ちなみにジュブレイシャンベルタンと聞くと杓子定規に高級と思われがちだが実は畑の格や生産者、ヴィンテージでまったく違う。

特級と言われるシャンベルタンという畑を中心に色んなブドウ畑が開墾されもともと存在していたジュブレイという村名をくっつけてGevrey-Chambertinジュブレイシャンベルタンとなったのだが、そうなった理由はシャンベルタンが美味しかったから。

後はナポレオンの愛飲酒になるほどブルゴーニュといえばかのロマネコンティではなくシャンベルタンこそが最高という時代があったのだ。

で、そんな有名なワイン(ブルゴーニュでは畑名=ワイン名)があるならついでに村も有名にしてもらおうとジュブレイにシャンベルタンをくっつけて出来上がったのが今日のジュブレイシャンベルタン。今や猫も杓子もジュブレイシャンベルタンと名乗る為、値段も味わいもピンキリの落差が激しいものとなってしまった。

のだが、実はシャンベルタンより有名だったのがクロドベーズ。という畑。つまりワイン。

クロとは垣根の意味。ベーズは当時そこにあった修道院の名前で修道院といえばワインの生産は必須。

そこであまりの味わいに有名になり地方からも飲みに来る人が押し寄せる人気になったところ、ベルタンという青年が噂を聞き当地に来て「俺ならもっと上手いワインが作れる!」とクロドベーズの隣でブドウ畑を開墾しだしたのだ。

フランス語でシャンは畑。ベルタンが作った畑だからシャンベルタンと呼ばれるようになり、なるほど確かに素晴らしい味わいのワインに仕上がるようになり、むしろクロドベーズより有名になったというわけ。

余談だが、フランスのワインの法律でクロドベーズの区画で作ったブドウを用いてワインを作った場合ラベルに書ける表記は「シャンベルタン」か「シャンベルタンクロドベーズ」のどちらでも選択できるがクロドベーズではない区画で作ったものを「シャンベルタンクロドベーズ」と名乗れないのは始まりがクロドベーズだからということに敬意を表したからです。

とまれ。当店のオーナーである銀髪中年の男性はその銘醸を一人心あらずで飲んでいた。

「オーナー、どうしたんですかね?良いことがあったから良いワインを飲もうって開けたのにすぐにぼうっとしちゃって」

「あー。あれはね。その良い事を思い出してる最中だからそうっとしておこうね。もう少ししたらマシンガントークが始まるから」

「え?あれって漫才師がネタを作ってるみたいな沈黙なんですか?」

「どっちかというと小説家がプロットを組んでるみたいな感じじゃないかな?ま、結局笑いをとることは考えてるんだろうけど」

「じゃあ新喜劇の台本ですね。あ、こっち見た!」

ワインバー店主でソムリエのポリフェノールとアルバイトのコダマちゃんの余りの普通のトーンの会話に思わず振り向くオーナー。苦笑いを通り越して馬鹿笑いしながら

「いやいや聞こえてるで!いや隠す気もなかったやろうけど!まーーーしゃあないな!そないに聞きたいなら教えたるやん!今日のゆり咲奈ちゃんの面白エピソード!!」

あ、やっぱりその方のお話しなんですね。と二人とも思ったがビジネスモード全開でうんうんと相槌を打つ。

ちなみにゆり咲奈さんというのはオーナーが贔屓してる舞妓さんの名前。

オーナーは話したくて仕方がないほど楽しいことがあるといったん話しを整理して完璧なストーリーを仕立ててから話す癖がある。それも贔屓の舞妓さんの事となると熟考が長めになるのだ。

店主のポリフェノールは当然アルバイトのコダマちゃんもすっかりその感じに慣れてどうせ~と当たりをつけていたからふんふんと聞く体制に入った。

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     つづく

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