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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常 その10 続役者とワイン

「ちょうど最近新しいのが入ったのでどうせならこちらをどうぞ」

そう言ってポリフェノールが一本のシャンパンを取り出した。

ゆっくりと抜栓してサービスする。

グラスは先ほどのフルート型から少し丸みを帯びた普通に白ワインあたりを飲むのに使うワイングラスに変更。

「シャンパンはボランジェPNです。PNは葡萄品種のピノ・ノワールの略です。どうぞ。」

佐藤が一口の飲んだ後にすかさず質問する。

「はいはい!いっぱい聞きたいことがありまーす!同じシャンパンなのにさっきと違うグラスはなんで?で、和製007にもう一本て小杉さんのオーダーにこのシャンパンなのは?それとPNは解ったけどVZ15は?てか、だいたいピノ・ノワール使うのってそんな珍しいことなの?」

「お兄さん、なんでも興味津々なんどすねえ。役者さんてそういうもんなんどすか?」

芸妓のよし夏菜さんもニコニコしながら話しかける。

それに答えるマネージャーの小杉は自身のことのように

「コイツは特にそういうとこあるね。なんでも研究して研究して最後は憑依する。みたいな感じかな」とうんうんと頷きながら話す。

そんな様子を伺いながらポリフェノールさんが話し出した。

「たけるさんの研究対象のご質問ならしっかりとお答えしなければいけませんね。

まずはグラスの違いですけど、これは味わいに影響を与える為です。

ドンペリニョンとボランジェPNの味わいのボリューム感でいうならほぼ同じくらいかややドンペリニョンのほうが強いでしょう。ただ今日は2本はお飲みになるだろうという予想から最初のオーダーの雰囲気を重視して、先にドンペリニョンをその次にボランジェをという流れを作ろうと思いました。

先のドンペリニョンは少し冷やし目にしてフルートグラスで清涼感を。

次のボランジェはドンペリニョンよりは温度を高めにしてグラスも丸みのあるワイングラスにして味わいの奥深さを感じて欲しかったのです。

シャンパンは必ずしもフルートグラスでサービスするものではありません。

このドンペリニョンにももっと熟成のタイプのものならバルーン型の大振りのグラスでサービスする時もあります。要はシチュエーションと味わいのバランス、加えてタイミングによりけりという訳です。」

「へー。グラス一つでもいっぱい考えるもんですね。で、次は次は?」

「ボランジェを選んだ理由ですね。でもその前にVZ15とピノ・ノワールのほうから。

これはこのシャンパンに使われている部葡萄がヴェルズィという村の2015年をメインに使ったからです。で、ピノ・ノワールが珍しいかというと別に珍しくはありません。

これはシャンパンの製法の話になるんですけど、シャンパンはシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの三種類の葡萄品種を各メーカーごとのオリジナリティによって使い分けられていて、たいていはこの三つをバランスよく配合しています。

ボランジェもそうで、一番スタンダードなボランジェスペシャルキュベはこの三つとも配合されています。

ま、基本的にピノ・ノワール多めではありますが。

特にピノ・ノワールだけで作ったシャンパンをブランド・ノワール、シャルドネだけで作ったシャンパンをブランド・ブランと言います。わざわざそう表現するという意味では珍しいというより特別といった意味合いが強いでしょうね。

ちなみに普通のワインだとたいていは2000年なら2000年のブドウだけを使いますがシャンパンは2000年、2001年、2005年みたいな感じでいくつかの年のワインを熟成して混ぜてしまいます。

そうしてオリジナリティのあるメーカーごとの味わいを毎年変わらず生産するっていう方法がスタンダードですね。たまにあるヴィンテージシャンパンは特にデキが良かったという証明でもあります。」

「へー。そういやシャンパンてヴィンテージもあったりなかったりだよね。それでデキの良い年のブドウだけ年号入りで葡萄も単一なんですね。デキが普通ぐらいだと色々混ぜられて、デキが良かったら特別年号入りなんて、ある意味芸能界より厳しいな(笑)」

「そこはソムリエには解りかねますが(笑)

最後にボランジェを選んだ理由でしたね。これは簡単。

ショーンコネリーの時代のボンドはドンペリニョンでしたが、現在のダニエルクレイグはボランジェを愛飲してるからです。

カジノロワイヤルはご覧になりましたか?

敵方のボスの恋人から情報を聞き出す為にホテルの前で女性をさらってベッドインするんですが、その前にフロントに電話でボランジェ・グランダネのヴィンテージをルームサービスでオーダーするんです。

その時にその女性とのキスが激しさを増してきたのでルームサービスを二時間後に変更するシーンがあるんですが、あれが最高にカッコよくてセクシーなんです!」

「覚えてる!そのシーン!でも僕はその前の女性を誘う時の『すごく近いよ』って言って同じホテルのロータリーをグルっと一周回って『ほらもう着いた』ってとこにシビレたけどなー。やっぱりソムリエさんだとそっちなんですね

「あそこもイイですよね!ちなみに、これがバーテンダーならヴェスパーと名付けられた通称ボンドマティーニのレシピを覚えて練習するのが定番だそうです。」

上機嫌になった小杉が杯を干しながら話す。

「これはあれだな!ポリフェノールさんからダニエルクレイグを超えるような名優になってくれって激励だな!

「そうですね!いずれは国境を越えてハリウッドで今回のシリーズ映画と佐藤たくみさんの名前が轟いてくれたら僕もサービスさせていただいた者として冥利につきます。」

「うわあ。それは大変!でも解った!プレッシャーだけどそれを楽しめる男になりたいしね!

じゃあ明日こそ屋根を飛び越える!!(笑)」

「それはもういいから!(笑)」

こうして今宵もワインバーバハムートの夜は更けていった。

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