オーナーのご贔屓の舞妓さん、ゆり咲奈さんはまだ彼女が見習いさんの頃からのお付き合い。
まさに借りて来た猫状態の何をどうしたらいいのか解らずにぼうっとしているゆり咲奈さんを見てオーナーはすっかり庇護欲を駆り立てられたようで、以来すっかりえこひいきしていた。
そんな舞妓さんも5年を過ぎるともうベテランさんの仲間入りで今や借りて来た猫の彼女はどこにもない堂々したものである。
が、そこがまたオーナーにとっては我が娘の成長を見守るがごとく目を細めて愛でている。
まあ華街の醍醐味といえばそれこそがそうではあるのだが。
「ほんでや!今日な馬主さんのお客さんに呼ばれてワシと咲奈ちゃんの二人で京都競馬場に行ってきたんやけどな。なんでか芸舞妓さんだらけ!それも京都の色んな華街であふれっとったんや」
「うわあ。それはまた豪華な。何か催し物でもあったんですか?」
「そやろ?そう思うやん普通!これがただの偶然!!確かに京都競馬場の馬主席に行ったら何人かの芸舞妓さんに会うことはあっても不思議やないんやけどこの日は10人!5華街全部!それも全部偶然!」
「そんなことあります?G1のある日曜日でもないし」
「そやねん。そうなるとどうなると思う?ワシらは9レースくらいから参加したんやけどな。馬券はワシらが買うけど咲奈ちゃんももう20歳や、適当にお遊びで予想だけしてみい言うて馬選ばせたんや」

「舞妓さんに馬券なんて悪いお客さんですねえ。」
「そこはそれや。馬券買う言うても舞妓さんに馬のお尻で好きなんどれ?とか適当に言わしてやな。。。いやそれはええねん。ほんでまあ買うやん。レース始まるやん。みんなで応援するやん?
そしたらなちょうどそこで咲奈ちゃんをみつけた他所の街の姉さんが「咲奈ちゃんやん、どないしたん?こんなとこで」言うて声かけてくるのよ。咲奈ちゃんからしたら先輩の姉さんや思うて失礼ないように挨拶するやん。
ほんでまた長いねん挨拶も!とかやってる内に予想してもらった馬券の結果を見る間もなくゴールやん!しかも当たってますがな!」
「え?どうなったんですかそれ?」
「咲奈ちゃんはすんまへん言うてたけどな。そうなるとお客さんもワシもこの子すごい眼力あるんちゃうかて期待してしもて。次のレースはパドックの様子をテレビ画面で見てもらったんや。そしたら8番の馬のお尻が光って見えるて言うしほなそれ買おうてなって。またレースが始まるいうときに咲奈ちゃんに飲み物買ってきてもらおうてなって行ってもらったんやけどな」
「あ。もうちょっと読めてきましたよ(笑)」
「そやねん!売店から帰ってきいひんねん!めっちゃすぐそこにあんのに!レース始まってるのに!お客さんともしゃべってたんやけど、これあの子帰ってきいひんかったらまた当たるんちゃう?て言うてたらほんまに当たるねん!ほんでホンマに終わってから帰ってくるねん!」
「なに、、されてたんすかね?想像つくけど」
「想像ついたやろ?そやねん!ワシが頼んだビールの銘柄が近くの売店にないからどこにあるか聞いて1階のパドック横の特設ブースまで行って買ってきてくれたんやて!いやもうビールの銘柄なんでもよかったんやけど!今日わりと暖かいから外のパドック横なんて行列できてるやん?並んで買ってきてまたレース見れへんで怒られたらアカン思って、でもビールの泡は消さへんように走ってきました!って言われてみ!!」
「悶絶してのたうちまわりますね(笑)もはや馬券なんてどうでもいいわってくらい可愛いエピソードじゃないですか」
「そやあ!!もう競馬場にいること忘れてワシら大の大人が脳みそぐわんぐわんなってたんや!解るやろ?!せやけど次はそうはイカン。なんせお客さんのお手馬が出るレースや。7番のお馬は当然買う前提で咲奈ちゃんに次の馬券を予想してもらったんや。
ワシもお客さんももはやノリノリ!お客さん自分のとこの馬出るのに予想がウチの馬と違ってても遠慮せんと教えてなて言い出す始末で」
「完全に大人二人が手玉に取られてますね(笑)しかもあの子ってそれホンマの天然ですからねー。」
「結局予想は2-7、3-7、4-8の三点になってな。お客さんとワシの中では7がらみの二つはこっちに気を遣ってのことでガチ予想は4-8ちゃうか?ってことになったんや」
「確かにちょっと謎な買い方ですね。どういう意味が、、、」
「レース始まるやん!そうなるとさっきまでのレース二つはなんやかんや咲奈ちゃん見れてないやん。でも今回はおるんよ。いやおって良いんやけどおらんで当たってたから今回はアカンのか思いながらも3人で7番!7番!言うて応援してたんや!
そしたらワシの携帯がブルブルいいだしてなんやねんて思って画面見たら咲奈ちゃんのとこの女将さんからや!これはキタ!!!って思って電話ごと渡して話聞いといてて言うたんや!お客さんにもすぐ事情説明して二人でニンマリしながら観戦や!咲奈ちゃんはあっちの邪魔にならそうなとこで女将さんとお電話や。取った!って思ってゴール前!」
「7番来たんですか?」
「来てへん!8番や!でも二着に4番が来て4-8!!見事にゲットや!」
「うわっやっぱりそっちなんですね!すごいな!すごいけどでもなんで4-8買ったんですかね?」
「それや!ワシもお客さんも気になるやん。電話終わって帰ってきた咲奈ちゃんがすんまへーんって言うてんねんけどもはや二人とも興味はその一点だけや!2-7,3-7,と買ってなんで4-8買おうと思ったんやて聞いたら」
「うちの名前がサナでお客さんのお馬さんも7番て言うてはったから3-7を。それでそれだけもなんやし前後の2-7、4-7も買おう思たんどす。当たってよろしおしたけど三回とも見れへんくてすんまへんどした」
「ん?」「ん?」
「ん???」
「当たったのは4-8でしたよね?」
「そおおおおうやねん!咲奈ちゃん天然すぎて2,3,4と続けて買う時に片方を7と8間違えて買うてたんや!!!!本人にそれ言うたら『あ。まちごうた』やて!!!まちごうたやあらへん!!大正解や!!オッサン二人が馬主席で大爆笑!!」
「いやあ。舞妓さん恐るべしですねえ。それじゃあお客さんも喜んではったんとちゃいますか」
「そらもうすっかりファンや!競馬場来る時は必ずお花つけよう言うてはったわ。でもさっきの女将さんからの電話言うのが、『アンタ、連れてもらうのはええけど舞妓はんなんやから馬券なんか買ったらアカンで!』ていう内容やったそうで(笑)まーこういうのは今回限りってなったんや。でも楽しかったからまたご贔屓さん増えたんは間違いないやろけどな」
ひたすらホクホク顔のオーナーの長ーーーーい話しはここから延々2時間続いたそうだ。