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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常その5 ご贔屓の姐さん

京都、花街にひっそりと佇むワインバーバハムート。

「ありがとう!ポリフェノールさん!今日のワインも美味しかったよ!」

「おおきに。ポリフェノールさん。またおたのもうします。」

夜も更けてきて60代の恰幅の良い男性と細身の綺麗な芸妓さんの二人が店を後にする。

「また~」と言って立ち去る芸妓さんを目を細めて見送るのはここの店主でありソムリエのポリフェノールだ。

ポリフェノールにはご贔屓の芸妓さんがいる。

基本的にはどなたさんでもあまり分け隔てのない彼だがよし夏菜さんだけは分かり易く贔屓にしていた。

確かに綺麗な姐さんで気立ても良く人気も人望もある姐さんだったので充分に理解はできたのだが、それにしても何故?と聞きたくなる程ポリフェノールが好き好き言うのでアルバイトのコダマちゃんが本当になんでそんな好きなんですか?と聞いてしまったのが事の発端だった。

「なんで?ってファン心理になんでもなにもないよ。好きだから好きに決まってるやん。」

「それは解るんですけど。なんて言うか、もう少し深い理由がありそうで。

ポリフェノールさんがよし夏菜さんを見る目がファン心理って言うよりも、、、

なんかちょっと違って見えるんですよね。もちろん恋愛の好きとも違って。なんか上手く表現できないんですけど」

「ははは。なんだそりゃ?考えて過ぎじゃない?」

そう言って笑い飛ばしながら後片付けをするポリフェノールだが、実際のところ鋭いツッコミが入って動揺していた。

まさにその通り。ポリフェノールにとってよし夏菜さんは特別な存在だった。

それはワインバーバハムートがオープンして一年が過ぎた頃の話し。

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その頃のポリフェノールはソムリエ試験の上級資格であるシニアソムリエ試験の勉強の真最中だった。

しかもちょうどその年の試験から様々な試験制度が変革しより厳しいものへと変わると言われていた。

後にその年以降の合格者をシニアソムリエからソムリエエクセレンスと呼称を変えると発表があったくらいちょうど色々なことが変わった年だった。

受験生のポリフェノールとしても油断なく万全の体制をとって勉強に励んでいたが、当然仕事は仕事。

休むこともなく日々の業務をこなしていた。

そしていざ明日が試験という日の晩のことだった

その日の営業は何か歯車が嚙み合わなかった。

アルバイトさんが急遽お休み。オーナーは東京に出張。

それでも特に予約が入っていないからと油断していたら開店時間前から急襲のような5名の来店に始まりあれよあれよで満席になっていた。

ワインバーバハムートのカウンターは10席。それと6人入れば一杯の個室が一つ。

その店に開店時間の30分前に20人が入店していた。

普段ならまず有り得ない事態。そもそも予約のゲスト以外が来店すること自体まれなのに、しかも営業開始前の時間にして満席以上。

普通なら焦りそうな状況だがポリフェノールは逆に振り切って落ち着いた対応をみせていた。

焦っても順番にしかできませんから!の境地である。

そんな中オーダーされた一本がスペインの雄。ウニコである。

生産者はヴェガ・シシリア。生産地域はリベラデルドゥエロ。

しかも今回はウニコ・レセルヴァ・エスペシャル。

通常一つの年だけのブドウでつくられるワインなのだが、特に優秀とされる年のものを3つブレンドして一つの新しい味を作るという同ワインのフラッグシップだ。

スペインワインの王。スペインのロマネコンティ等と形容されるが味わいとしてはスペインのラトゥールが正しい表現といえる。

スペインの土着品種テンプラニーリョを中心にフランスのボルドーの品種を補足。

長期の樽熟成瓶熟成を経てリリースされる。

力強く芳香。味わいのピークはリリースの後30年はかかるであろう長期熟成タイプの仕上がり。

スペインのワインがまだほとんど国内で消費されていた頃にいち早くその名声を外に勝ち得ていた。

だが問題は、、、ポリフェノールからするとこの超高級ワインのオーダーがまさかのこの忙しさの中なのかという驚きだった。

ふうと一呼吸つき落ち着いてボトルのキャップシールにナイフを入れようとした時、

まさにその瞬間に店内の電話が鳴る。

と、同時にカウンターの端で「すんまへーん」という声が聞こえる。

「ポリフェノールさん、トイレ空いてるかな?」と確認をとるゲスト。

一つ一つ対応しながら「手間取ってしまい申し訳ございません」とウニコをオーダーしたゲストに謝罪し改めてワインを抜栓しようと取り掛かった。

「繁盛してイイことやないか。急いでないからゆっくりでええよ。」

「ホンマですねえ。ウチここに寄せてもらうの初めてどすけど、このお人と一緒に行くといつも忙しくなるから大丈夫どすえソムリエはん。」

「え?そんなん思うてたん?」

「思うてました(笑)。でもよろしいやん。お兄さん福の神やわ」

サービスが遅れたことを申し訳なく思っていたらゲストもお連れの芸妓さんもまるで意に介さず、むしろ忙しくなったのは自分達のジンクスのせいだと謝ってきた。

その気持ちを有難くいただきながらもポリフェノールは抜栓を急ぎデキャンタージュからグラスに注いだ。

「大変お待たせ致しました。どうぞお召し上がりください」

この時の芸妓さんこそがよし夏菜さん。

後から知ったのだがこの姐さんはお酒が飲めない。。

当然ご一緒のお客様もその事を知ってすぐにソフトドリンクを別で頼もうとしていたのだが、店側の忙しさを窺ってよし夏菜さんが「かましません」と止めていたのだ。

しかも、「あ!このワイン1990年が入ってるんどすね!ウチと同い年や!」

等と小気味良くはしゃいで場を盛り上げ、その後も忙しく動くポリフェノールの様子を見て上手に声をかけ自分もお客様も楽しく過ごせる空間を作っていた。

ポリフェノールからすれば本来自分がすべきこのワインバーでの空間作りを一緒になって盛り上げてお客様を楽しませようとしてくれる姿に感動を覚え、芸妓さんとしてはもちろんイチサービスマンとしても尊敬するようになったのだ。

しかも、、、可愛くてタイプ!(笑)

______________

あれから数年。

その姐さんは綺麗で気さくな姐さんとしてさらに有名になりその美貌にも磨きがかかっている。

そのせいかは解らないがポリフェノールさんがよし夏菜さんを見る目も年々デレデレになっているそうな(笑)。

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