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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常その8 続フランスからのお客様

ポリフェノールは昔ソムリエの先輩に教わった話しを思い出していた。ピンクの蝶ネクタイの都市伝説を教えてくれた先輩と同じ人だ。

思えばその先輩は冗談とも本気とも解らないエピソードをたくさん聞かせてくれた。

中にはかなり眉唾な話もあったが、聞いて不快になることがないので仮に嘘だったとしても「ソムリエの優しい嘘」だと思えば楽しかったのだ。

それは何かのテレビ番組のネタだったようだが、

あるフレンチのレストランでコース料理のメインに牛フィレ肉のステーキが出た。

そこにかかったソースは前日のパーティーで提供されたワインのオリを集めて煮だしたものをベースにしていたのだが、この一品に最高の相性を伴うワインを選択せよとの注文がソムリエに入った。

ただ、この注文はソムリエには簡単な話しだった。

迷わずにシャトールパンをサービスしてゲストの興を満足させたのであった。

では何故シャトールパンが正解だったのか。

それはそのステーキのソースに使われたワインがヴューシャトーセルタンだったから。

このヴューシャトーセルタンとシャトールパンは葡萄畑が隣り合う上にオーナーが同じ一族。

従妹兄弟で作り分けされていた。

ブドウ品種はメルロ種を使うルパンとカベルネ種をメインにするヴューシャトーセルタン。

新興のルパンと古来ポムロールといえば常に最良とされてきたヴューシャトーセルタン。

対比の妙も相まって確かにワインとソースの相性としては非常に興味深いものとなったであろう。

この話しを聞いたのは10数年前。ポリフェノールはそんな昔話を思い出してご夫婦にヴューシャトーセルタンをサービスした。

ヴィンテージ1981年は良作の年だ。

その近辺の当たり年としてあまりにも1982年が有名になった為に過少評価されがちだが、超トップクラスのボルドーワインの1982年は未だに熟成のピークを迎えてはおらず価格だけはそれに相応するものになっている。

逆に1981年、しいて言うならば1983年も熟成のピークといえるものにかなり近づいていて味わいも価格に見合った以上の代物だ。

ポリフェノールはデキャンタージュをしてサービスをする。

ご夫婦はそれはそれは驚き、かつ喜んで

「知っていたのかい?素晴らしいサービスだ!」

「舞妓さんは可愛いしここは本当に良いお店ね!」

何となく褒められたことが解り舞妓のゆり咲奈ちゃんがポリフェノールに質問する

「おおきにお兄さんお姉さん。でもなんでこのワインでそんなに喜んではるんどす?」

「それはですね、このワインがお二人の従弟兄弟の作品だっていうのが一つなんだけど。

それ以上に僕がお二人を知ろうとしてそのうえで何かをしてあげたいって思ったことが伝わったからだと思いますよ。先ほどからのゆり咲奈さんの接客もまさにそれが解るものだったからこそお二人が喜んでおられるのかと」

「へええ。おおきにー。うれしおす!ほんならもっと頑張らなあきまへんね!」

と、さらに頑張ってつとめる舞妓さんに帰り際お二人はチップをお渡しに。

そしてポリフェノールさんには名案を思ついた表情でピンクの蝶ネクタイの旦那さんが

「このお店にシャトールパンは置いているかい?」と尋ねてきた。

ポリフェノールさんは

「もちろんございます。お持ちしましょうか?」

とシャトールパンをパニエに入れカウンターに置いたところ、旦那さんがおもむろにサインペンを取り出しスラスラとボトルにサインを入れてくれたのだ。

ただでさえ20万は値付けのするシャトールパンがこれでもういくらかの価格アップである。

というか売り物の意味合いをもう超えたようなものだ。

ご夫婦は最後まで粋な楽しみ方を心得ていた。

身なりやその地位だけではなく本当の贅沢を知っている者は自分達の時間の使い方、過ごし方、楽しみ方が粋ですぐ周りにいる人達をも一緒に楽しませるものだ。

素晴らしいサービスには素晴らしい賛辞を贈る。

贈られた相手はまたその方の為に頑張ってサービスをしようというものだ。

この日ポリフェノールがフランスからのゲストにもらったのはワインの生産者にソムリエがしてもらえる最大の賛辞だ。

ポリフェノールはかなり嬉しかったようで、

喜んだ勢いでピンクの蝶ネクタイの都市伝説を教えてくれた先輩にこの話しを報告に行って深夜まで旧交を温めたのはまた別の話し。

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