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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常 その25 パリスの審判

京都、花街の一角にひっそりと佇むワインバーバハムート。

そのカウンターには今をときめく名俳優の佐藤たくみが、マネージャーの小杉、舞妓のゆり咲奈をお供にお芝居談議に花を咲かせていた。

「いや!あそこであの道具はもう伏線が見えるから良いんだって!意図的にそう見せるのもテクニックの1つ!」

「そういうことどすかあ。色々考えてはるんどすねえ。ウチ、シンプルに可愛いわあて思うてました」

「咲奈ちゃんはそれでいいの!シンプルに楽しむのが一番だから!たくみは色々複雑に考え過ぎだって。

まあ役者なんだしそれくらいの方が幅が出ていいんだけど。もう少し単純に考えることも必要じゃない?」

「えー?そうかなあ?頭で考えて肌で感じて両方できてやっとまだ半人前。

一流なんてそこからまだまだ先の話だって。

オレなんてぽっと出の顔が良いだけのアイドル俳優とか言われてるんだから逆に他人よりもずっと多く入り込まないと」

グッと力を入れて熱弁するたくみにポリフェノールも頬を緩ませて話す。

「相変わらず真面目さんですねえ。本当におごらないですよね。先日公開された映画も興行収入トップの評価を得たっていうのに。今のたくみさんをぽっと出とかいう人いませんよ(笑)」

「ありがとう♪僕の評価はともかく、あの作品はほら。原作も有名だったし、何より名マネージャーの小杉さん達広報が頑張ってくれたからね!」

「うわっ。たくみ!そのナチュラル人たらしをオレに使うのやめて!(笑)」

そう。佐藤たくみは超真面目でいたって本人に悪気はないのに天然で人たらし的な発言ができてしまうというナチュラルボーンだったのだ。

その為、男女分け隔てなく彼と一度接した者は彼に魅了されるというのがお決まりの展開だった。(ワインバーバハムートの日常その9 役者とワイン参照)

「ま、それはそうとポリフェノールさん!盛り上がり過ぎてオーダーまだだったね!

今日は白ワインを一本いただこうかな?ゆり咲奈ちゃんももう二十歳だからお酒大丈夫だよね?」

「へえ。すんまへん。おばちゃん舞妓どす(笑)ワイン大好きどすう♪」

「二十歳でおばちゃんだなんてスゴイ世界の話ですね(笑)了解しました。では一本ご用意いたします。」

白ワインをワインクーラーに入れてテイスティングをする。

確かめた後にワインをサービスした。

「ワインはシャトーモンテレーナ・シャルドネ2014年です。カリフォルニア、ナパヴァレーのワインですね。

味わいは良い意味でカリフォルニアに白ワインらしからぬ酸と程よいコク、青りんごの風味が秀逸です。

今日もたくみさんに楽しんでいただけたらと映画に因んだワインをご用意いたしました。」

ポリフェノールの説明を聞いて佐藤が目を輝かせて聞く。

「え!それ何?聞かせて!聞かせて!てか、うまっ!これ本当にバランス最高のワインですね!」

「ほんまどすねえ♪美味しおす♪♪あ、ほんまに青りんごの香りもしはるんどすね」

「ここはポリフェノールさんのストーリーを聞くのも楽しみの一つだからねえ♪」

小杉に促されてポリフェノールが語りだす。

「はい。それでは少しだけ。これはワインの世界では有名な事件の話で実際にあった出来事です。

事件の名前はパリスの審判。

元来パリスの審判とはギリシャ神話における伝説の一つでトロイア戦争の原因となった逸話とされています。

それは三大美神の誰が一番美しいかをパリスという(アレクサンドロス)トロイアの第二王子に決めさせたことに端を発するのですが、ワイン界でのパリスの審判は西暦1976年の話です。

今からたったの45年前の話ですが、世界でワインといえばフランスワインが1強だったんです。

とにかく味の一点において最高のものはフランスからしか産まれないというのが当時の常識でした。

後の世界初のワイン学校となるアカデミー・デュ・ヴァンの創始者にしてパリのワインショップのオーナー、スパリアがある企画を催します。

1976年はアメリカ建国200周年。

イギリス人のスパリアとその友人でありアカデミー・デュ・ヴァン一人目の講師となったアメリカ人のギャラガーがアメリカ建国200周年を記念してショップと学校の宣伝の為に考えた企画こそが、今でいうブラインドテイスティングでした。

審査員も超一流。

DRCのオーナー、ボルドーの格付け委員の会長、三ツ星レストランのソムリエ等早々たるメンバーが集っていました。

ただし、主催者のスパリアはもとよりこのメンバー全員がフランスワインの優位をまったく疑っていなかったので結果を見て愕然となりました。

白ワイン部門で1位に選ばれたワインこそが今皆様にお飲みいただいているシャトーモンテレーナなのです。」

「ふわあ!そりゃすごい!まさに革命のワインってわけですな!」

「そうですね小杉さん。特にアメリカではニューヨークタイムズにも取り上げられ大騒ぎになったようです」

「でも、本当にそれまでアメリカ対フランスでワイン対決ってしてなかったのかな?」

「はい。あったそうですよ。ただし審査員が一流でなかったのとメディアも一流どころが相手にしなかったのでたいした騒ぎにはならなかったようです。

実際、このパリスの審判もアメリカでの報道の後数か月経ってフランスでもニュースとして取り上げられたということですし。」

「フランス人、悔しかったでしょうねえ。大御所の役者が映画館のスクリーンで出たての若造に負けたみたいな感じですもんね」

「まあ、そうでしょうね。でもこれがきっかけでワインの世界は一機に変革します。

フランスワインでなくとも美味しければ正当に評価されるのだという機運が高まり、世界の各地で新しい伝説的ともいえるワインが次々デビューしていきます。

ワイン界のルネサンスですね。」

「はあー♪そりゃ若手俳優代表としてはめちゃくちゃ気持ちいい話ですね!このワインますます好きになりそうです♪」

「たくみ!言うとくけどな!そう言ってる自分だってそのうちベテラン俳優になるんだからな!」

「その時は若いモンには負けん!って言ってこれ飲むわ(笑)」

「へえ。お兄さん気張りましょ♪♪ウチも若手舞妓に負けまへん!(笑)」

大笑いする3人は改めて乾杯をしてワインを楽しんだ。

こうして今夜もワインバーバハムートの夜は更けていく。

ちなみに、このパリスの審判。

赤ワインも1位を獲得したのはカリフォルニアワインのスタッグスリープカベルネ・ソーヴィニョンでした。

この写真のボトルの右下にある1976の文字がまさにこのパリスの審判を記念した文様です。

機会があればこちらもぜひ飲んでみてください。

美味しいですよ♪

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