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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常その7 フランスからのお客様

花街にひっそりと佇むワインバー。その暗がりのカウンターでは一組のご夫婦がワインを楽しでいた。

年の頃は60代。白髪で笑顔のキュートなお二人。上品にエルメスを着こなし、旦那さんに至ってはピンクの蝶ネクタイといういでたちだ。ピンクの蝶ネクタイを着こなす紳士は特に最上級の上流階級が多いという都市伝説を以前先輩に教えられたことを思い出す。

実はこのご夫婦。フランス、ボルドーの超有名銘柄の生産者の関係者夫婦。

その名もシャトールパン。ボルドーにおいてその歴史は浅く、畑も猫の額程の広さしかない。

生産は年たったの500ケース。同額程度で取引される他のボルドーワインが2万ケースとかを産することを考えれば本当に少量だ。

なのに、1979年に登場すると瞬く間にスターダムにのしあがっていった。

メルロ種で作られるこのワインは芳香にして豪放。しなやかなタンニンと長く続く余韻に業界が大いに震撼したのだった。

ワイン名ルパンは一本の松の木が庭にあったことからなのだが、

シャトールパンはそんな可愛いエピソードに似つかわしくない価格となってしまった。

ワインバーバハムートのオーナーの友人の友人だということで京都に来訪の折に来店されたのだ。

店主のポリフェノールはソムリエ歴も長く滅多なことでは緊張しなくなっていたのだが、流石に超がつく有名ワイナリーの関係者のご来店とあって緊張を隠せないでいた。

オーダーは片言の英語ともっと片言のフランス語で。

ボルドー右岸ポムロールの有名生産者がいったいどんなワインをオーダーされるのか興味津々だったのだが、やはりというか以外というかオーダーはフランス、ブルゴーニュの銘醸だった。

ブルゴーニュ、モレサンドニの特級畑クロデランブレイ1985年。

北にジュブレイシャンベルタン、南にシャンボールミュジニーの有名な地域に挟まれた地味なイメージのモレサンドニだが、逆に通好みの素晴らしいワインが多い。

1985年は特に当たり年で、優雅な酸味と血統書付きと思わせるような繊細で甘美な香りが長く続くワインに仕上がっている。

快活でよく笑うお二人は楽しそうにワインと向き合い、時にお二人の今回の旅の思い出話に花を咲かせていた。

しばらくして、オーナーの肝いりで舞妓のゆり咲奈さんが呼ばれる。

もちろん舞妓さんは英語もフランス語も話せない。(最近、ごく例外もいる)がそこは舞妓歴5年の彼女はたどたどしくもなんとかコミュニケーションを取ろうと試みる。

そんな彼女に魅了されお二人は益々上機嫌になってワインを進めていた。

「へえ。そうなんどすね!お二人は有名なワインを作ってはるんどすか!あ、これは千社札。マイネイムカードどすー」

舞妓さんのお名刺はシールになっている。俗に花名刺とか千社札とか呼ばれるもので、舞妓さんの名刺だけにお財布に入れておくとお金が舞い込むそうだ。

ごろ合わせなのだが縁起が良いので本当にお財布に贔屓の舞妓さんの札を入れておく旦那衆は多い。

ちなみに、これが芸妓さんになると元舞妓さんなのでもっと舞い込むと言うわけで更に縁起が良いとか。

知り合いの女将さんなんかは「私は元舞妓で元芸妓やからもっともっと舞い込むねん♪」とおっしゃってたからそういうものかと有難く頂戴したものだ。

ゆり咲奈さんはなんとかこの情報を伝えようと「メニイメニイ」とか「モアリッチ!」とか本当にベッタベタの片言で話している。

ただ、このあまりに微笑ましい可愛さというのは全世界共通のものらしくご夫婦も大きく笑いながら目がとろんとろんに溶けていった。

恐るべし舞妓はん!

世界トップクラスのワイナリーにして、貴族同然のお金持ちの心を一瞬で溶かすとは!

大人のテーマパークのマスコットキャラクターの地位は健在だわ

と、思っていたらここでワインが空いてもう一本ということになった。

ワインリストを渡そうとするが、奥様がそれを制してまさかの「おまかせ」を宣言してきた。

一気に緊張が走ったがポリフェノールさんはすぐにある話しを思い出してワインセラーへと向かった。

つづく。

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