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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常  その1 10年分の乾杯1

京都、花街の一角にひっそりと佇むワインバー バハムート。

その門前の石畳の道。行き交う芸舞妓さん達と、そんな情景に似つかわしくない黒ベストの男が気楽な感じで声をかける。

「こんにちはー。またウチも来てやー」

「こんにちは。えー。また呼んでおくれやす」

笑顔で振り返ってお決まりのご挨拶。

お仕事の依頼をして呼んでも忙しくてなかなか来てくれない子もいれば、ホントにあまり呼んでない舞妓さんとでも交わされる会話。

ほんまに最近あの子呼んでへんなあ。とぶつぶつ言いながら玄関を放ち開店させる。

男の名前はポリフェノール。京都のレストラン、ワインバーを歴任して花街のワインバーにて雇われている。

数年前になんの奇跡か上級のソムリエ資格も取得しマニアックぶりに拍車がかかるワインオタクである。

今日も定時にのれんを出しオープンのサインをだす。

本日のご予約は二組。一見さんお断りのお店なのでほとんどのゲストが予約で来店される。

「今日のご予約の方ってどなたでしたっけ?ポリフェノールさん」と、アルバイトのコダマちゃんが聞く。

彼女は京都の大学に通う21歳。

お酒に興味があるからとバハムートでアルバイトを始めて二年のウチに舞妓さんにも興味を持ったらしい。お調子者だが誰にでも明るく接する雰囲気が好評だ。

「今日はオーナーが坂本さんと打ち合わせがてらの一杯と。もう一組は僕の古いお客様だよ」

「古いお客様ってどんな方なんですか?イケメン?」

「イケメンっちゃあイケメンだけどね。それ以上に想い出深い方なんよ。」

「へー。想い出深い,ですか。良かったら聞かせてください!」

「ん。いいよ。もう15年も前のことなんだけどね......

『当時ぼくはソムリエとしては駆け出しで、まだソムリエ資格を受験すらしていなかった頃の話なんだけど。新しくオープンしたばかりのお店に移ってまだ数日という時にあるカップルが来店されたんだ。

典型的な仕事のできるオーラをまとった50代のビジネスマンと恐らくその秘書であろう知的な雰囲気の美女。

おすすめのコース料理をオーダーの後に

「中華料理でフレンチスタイルのサービスってことは飲み物はワインかな?と言っても中華に合うワインは解らないから君に任せるよ」

と言ってそのイケメンビジネスマンがワインのオーダーを僕に任せてくれた。

ヌーヴェルシノワっていうんだけど中華料理をフレンチスタイルに仕立ててワインを楽しもうというお店はあの頃の京都には珍しい存在で。でも知らないことを少しも恥じずにワインを任せると言ってくださるこの方にカッコいいなあと思ったもんだよ。

さりげなくご予算を確認してシャトーコスデストゥルネル96年をご用意したんだけど、コースの二品目に提供した北京ダックやメインのトンポーローによく合うと喜んでいただけてぼくも嬉しかったんだよ。

そこまでは。。

お会計の時にそのお客様がね

「今日はありがとう。お料理も選んでくれたワインも美味しかったよ!これ取っといて」

そう言ってチップを一万円くれようとしてくれたんだ。

もちろん今なら「ありがとうございます!!」の一言ですぐにもらっちゃうんだけど(笑)当時はそのお店、ひいてはその会社に勤めてすぐの頃だから規約的に大丈夫だったかなと不安になってまごまごしてたら

「なんだ、これだから日本のサービスマンは。海外ならすぐに笑顔でもらってくれるのに」

とご機嫌斜めになってこられて、、あ、ヤバいなあと思って咄嗟にでた一言が

「もしよろしければお客様のお名刺をいただいてもよろしいでしょうか?」

ただのまぐれ当たりだったんだけどね。そのお客様も粋な方だったので

「お!なんや金より俺の名前が欲しいか!こりゃ一本取られたな!進呈しよう!一万円分の名刺だ!」

って、感じでまるく収まったって話。カッコいい方でしょ 』

「素敵な方ですね!じゃあそれからずっとポリフェノールさんのお客様として通ってくださってたんですね!」

「そうだね。その中華料理のお店にいた二年間はずっと。

で、いよいよ最後って日に将来いっぱしのソムリエになれたと自信がついたらご連絡いたしますのでお待ちいただいてもよろしいでしょうか。って言ってまるまる10年音信不通にしてたんだよ。」

「10年??え?なんでなんですか?」

「資格試験自体も受けてなかったしね。と、なんだろうね。区切りかな?

色々なことを学ばせていただいた方へのご恩返しにはちゃんと成長した姿を見せるのが義務でそれまでお会いできないと枷を自分に強いたのかもね。10年は長すぎた気もするけど忘れたことはなかったよ」

「へえええ。それでその方が来られるんですね!なんか私まで楽しみになってきました!」

ちょうどその時カランという音と共に店の玄関が開け放たれる。

「いらっしゃいませ!」

すぐに思考を切り替え二人は来店されたお客様をお迎えした。

                               つづく

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