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ワインバーバハムートの日常

ワインバー バハムートの日常 その12 ニガイはアマイ

花街にひっそりと佇むワインバーバハムート。

今夜は設計事務所社長にしてこの店の常連の坂本が夫婦で来ていた。

坂本夫婦は二人とも50代。高校生の頃からのお付き合いでそのままゴールインというおしどり夫婦だ。

ただ、お子さんはいない。そのせいか舞妓のゆり咲奈さんを娘のように溺愛していた。

バーバハムートのオーナー山崎と意気投合したのは同じ舞妓さんのファン同士だったことから始まったらしい。

「今日は残念でしたね。ゆり咲奈さん。先にお仕事を受けていらしたようで。」

「いえいえ。お仕事忙しくしたはるなら何よりよ!ウチらはまたいつでも呼べるし」

「そうやな。それに今日は急やったし仕方ないわ。よっぽどタイミング良く宴会が早く終わったら駆けつけてくれるかもしれんしな。まあ今夜は夫婦水入らずで一本飲もうや」

舞妓さんには宴会の時間というのがある。

あくまで基本的な話しだが18時から20時が宴会の時間。例外も多々。それこそお昼の宴会もある。

その前後それぞれの館から宴会場までの移動時間もお会計に入る。なので芸舞妓さんがお座敷からお座敷へ移動しているのを足止めするのは呼んでもらっているお客様に迷惑をかけることになるので彼女達は常に大急ぎだ。

宴会の時間18時から20時というのもあくまで基本の話しなので宴会によっては前後するし、場合によっては二次会三次会に連れていかれることもあるので事前に予約しておかなければ21時からとかで呼ぶことは難しいのだ。

「今日はどうしようかな?さっきまでは洋食食べてたんやけどあそこはワインの品揃えがあんまりないから安いボルドーを飲んでたんよ。」

「そうよねえ。少し雰囲気を変えて飲みたいわね。ポリフェノールさん何か良い提案あるかしら?いっそコダマちゃんの飲みたいワインをみんなで飲もうかしら?」

「私の?私の好きなのにしたらイタリアワイン一択になっちゃいますよ!あ!でも奥様の今日のスカーフがエルメスだからピッタリかも!」

「コダマちゃん。エルメスはフランスメーカーだよ(笑)まあいいや。せっかくそうおっしゃっていただいてるんだからイタリアのワインにしましょうか。ちょうど良いワインが入ってるんですよ」

そう言ってポリフェノールはセラーからワインを引き抜きパニエに移して持ってきた。

デキャンタージュの後にワインをサービスする。

お言葉に甘えまして、と自分達にも注ぐ。

「ワインはダルフォルノロマーノのアマローネデラヴァルポリチェッラ2013です。」

「え?なんて?それなんかのおまじないみたいな名前やな(笑)」

「イタリアのワインに多いですよね。やたら名前の長いの。ちなみにこのワインはイタリアの格付け上DOCGとなっていますが、このDOCGをちゃんと言いますとデノミナッツィオーネディオリジーヌコントロラータエガランティータです。」

さらっと早口言葉のように話すポリフェノールに坂本夫婦は笑いながら答える

「もう訳が解らんわ(笑)」

「面白いわね。それ訳すとどうなるの?」

「原産地呼称統制ですね。例えばアマローネならアマローネと名乗る為に国で決められたブドウ栽培、ワイン醸造方法をとらなければいけないんです。その最も厳しい格付けがDOCGですね。」

「それがデノミデノママね。」

もう諦めたとばかりに坂本さんが答えた。

「デノミナッツィオーネよ。あなた。その後は私ももう覚えてないけど(笑)」

「お二人とも面白すぎます!あははは。でもそれならこのワインのブドウ品種の名前はもっとややこしいんですよ!ね、ポリフェノールさん!」

「そうですね。いいですか言いますよ。コルヴィーナ、モリナーラ、ロンディネッラ、ヴェロネーゼ、ウヴァリーノです」

「は????」

「は?こ、え?何??もう魔女の唱えるなんかやん!(笑)」

「ね?私なんか何回聞いても覚えられませんもん!」

「いやいや。君は覚えようよコダマちゃん(笑)このワインはイタリア中北部ヴェローナのワインです。ロミオとジュリエットの舞台で有名な場所ですね。

で、この地方はワイン用のブドウを生産するには土地が肥沃過ぎるんです。ワイン用のブドウは痩せた土地でこそ真価を発揮しますから。

そこで地元の人達が考えだした答えがブドウを陰干しするっていう方法です。陰干しすることでブドウの糖度を高めようということです。アルコールは糖分が酵母の働きで変化したものですからね。

リパッソというのですが、飲んでいただいて解るように少しレーズンのような干した香りがしますよね。」

「確かに!それに味も何か甘いような気がするな」

「それが面白いところで、イタリア語で直訳するとアマローネはめちゃ苦いってい意味になるんです。

陰干しして糖度を高めたぶどうジュースを使って発酵させていたので当時のワインとしては苦かったんでしょうね。ちなみにほんの200年前までほとんど全てのワインは今でいう甘口でした。

これは発酵のメカニズムが開発途上だったからなんですが。」

「へーそうなんですね!アマローネなのにめちゃ苦いって名前で実際は少し甘め。ややこしいな!(笑)」

「そういや、タベルナってイタリア語の意味は食堂ですもんね!イタリア語って日本語と相性ピッタリなんじゃないですか?(笑)」

無責任な発言を続けるコダマちゃんに大いに笑いながらご夫婦はワイワイと楽しんでいた。

それから小一時間程経った頃、

「おおきにい。お待たせしてしもうてすんまへん。」

艶やかな着物に身を包んだ舞妓さん、ゆり咲奈さんが来店した。

それを見て一瞬で顔をゆるゆるにする坂本ご夫婦。

「ゆり咲奈ちゃん!!来てくれたんだね!」

「へえ。坂本さんご夫婦やて聞いて走ってきましたあ」

めちゃ苦いという名前のワインも今宵の二人にはやはり甘口だったのだろう。

ニコニコして答えるゆり咲奈さんを挟んでご夫婦は一人暮らしの娘に会ったように会話を弾ませた。

こうして今夜もワインバーバハムートの夜は更けていった。

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